川崎廣進・工房カワサキの世界

〜The World Of Koushin Kawasaki & Koubou Kawasaki〜

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旅の思い出(その3)最終回    2007年01月18日

午前3時にドアノックで起こされた。ホテルといってもここはゲストハウスだ。

薄暗い街燈を背に足元もおぼつかないまま私達20人は舟に乗り込んだ。岸辺と舟の距離が3メートルもあろうか?  幅30センチ位の狭い板に一人ずつがサーカスのように渡してもらった竿を右手でつかんで掛けあがった。

1階の客室といっても広間のみでエンジン音のする操縦室兼客室である。ほとんどの人は屋根上に登った。擦り切れたような汚いの毛布を敷いてもらって寝そべったリ夜景に見入っていた。周りにはまだ人影も無い深夜である。静寂を破ってエンジン音が大河に鳴り響いた。舟は流れに逆らって次第に速度を増していった。屋根上は次第に寒くなってきた…ジャンパー持ってくればよかった…半袖の人も何人も居た…皆強いな…それとも私が弱いのか?

空には月や星が輝いていた。風の抵抗を少なくするため横になった。皆屋根上でトランプの準備をしていた。私は寒さにたまらず1階に降りた。土足で歩く床板でも体を横にすると気持ちがいい。ひと寝入するうち次第にあたりが明るくなってきた。

朝日対岸前方から太陽が空を染めてきた。ガラスも無い船窓から眺むるこの瞬間はまさに至福のひと時だ。今自分のいる国も忘れてその瞬間を茫然自失と眺めていた。時計の針は6時半を指していた。

周りは明るくなるつれ黄土色の水が見えてきた。揚子江の水と同じだ。大河は皆同じだろうか、インドにいる間に一度は行ってみたいガンジス川もこんな色の河だろうか?  いろんな想像を巡らしてみた。

周りの美しい風景が次第に鮮明に見えてきた。対岸はあまりにも遠方で、かすかに山並みしか見えずいくら河口に近いといってもあたかも海のようだ。太陽が昇につれ大小の舟が往来し、互いに声を掛け合って手を振った。どの舟も屋根に多くの人が乗っていて、この3倍くらいの大きな舟もあった。

お寺、お土産、トイレも含めて4、5箇所くらい20〜30分の休憩で下船した。あとは波1つない大海原を寝たり起きたりしながら周りの景色を楽しんだ。太陽が高くなるにしたがって屋根上にテントが張られた。

この旅は巡礼のようにお寺が多かった。河岸に広漠とした砂丘もあった。ラクダがいないかと周りを見渡した。岸には老舟が2艇長い任務を終えて駆逐したまま横たわっていた。その横に5、6人の人達がテントを張って生活をしていた。別の舟からもお寺に詣でする人たちの姿がまばらに見えた。

途中コーヒーブレイクやランチを船上でした。プラスチックの容器に好きなだけ盛られた。こちらの容器は日本のと比べ物にならない位薄い、どうせゴミになる運命ならば合理的に出来ている。日本は地球の資源を使い過ぎる。

コーヒーをお替わりしようとコップを差しだしたら川にポイと捨てられた。私は思わずnoと言ったがそのまま新しいコップに注いでくれた。ご飯を食べた皿もみな川の中に無残に捨てられた。皆こんなことしていたら未来のインドはゴミの山になるのでは?  と思わぬお節介をやいた。
・・・日本は持って帰って資源ごみに出すんだよ・・・
とゼスチャーしたり通訳の人に言い伝えた。それを聞いていた仲間達は不思議な顔をして私を見て「日本はそうなんだ」と理解した顔をしながら又平気で物を川に捨てていた。何の悪びれる様子も無い可愛い女性もいた。

最後の日程がすべて終わって出発地に戻ってきた。途中見たサンセットは特別美しかった。小高い岸辺にサトウキビ畑や椰子の樹が生い茂りその奥に真っ赤な太陽が追いかぶさるように沈んでいった。逆光で見るその色は筆舌尽くしがたいものだった。

インドは大きい。船上からこの雄大な自然を見るにつけ人間の力や技や 存在の小ささを感じた。貧しくともこの大パノラマはこの河の流れの如くゆったりと懐深くし、国籍、人種を凌駕し、すべての生き物を抱きこんで眠っているうちに別世界に導いてくれる。不思議な力を感じた。

すべてが終わり荷物を整理して夜行バスに乗り込んだ。 日本であるようなデラックスバスだった。これで朝になるといやが上でもハイデラバードに着く。眠れぬ車中でいろんな場面を思い出した。なんと言ってもゴミの問題だ。知ったかぶって言ったあの言動は自分自身にも反省したつもりだった。「おせっかい」は親切とは違う。時として反対の意味も持つ事もある。

多くの美しい自然を見て感慨深くこの旅を思うにつけ「この国にはこの国の事情がある」との声が聞こえてくる。私のような異国人がインドのお国事情を語るなど論外であろう。 ただ数年後、私が又この地を訪ねた時、前にもまして美しい自然や河川が残っていますように、そしてこの国の人たちの心の中に経済至上主義もさることながら地球環境に対する感心の高さを期待せずにはおれない。最後に多くの親切を受け愉しい旅が出来た事を感謝し感想文とします。



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