川崎廣進・工房カワサキの世界

〜The World Of Koushin Kawasaki & Koubou Kawasaki〜

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アジャンタとエローラの旅(その3)    2008年09月11日

7時に起き窓を開けると外は爽やかな青空が広がっていた。今日は天気が良いぞ、今日も8時半バスの出発予定になっていた。昨夜買い込んだバナナとお菓子を口に含んで朝食代わりにした。レストランでチャイを一杯飲んだらバスが来た。今日は一台で行くらしい。バスはほぼ一杯にお客が乗ってきた。アジャンタはホテルから3時間ほどかかると言っていた。夕方に帰るとして往復6時間もバスに乗る計算になり道中のほうが時間がかかる事になり気が重くなった。

バスには昨日と違ったお客さんがほとんどであった。やはり日本人の若い2、3人連れも何組か乗ってきた。噂の通り沢山日本人が来ているんだな?と驚いた。これだとこの地域の観光客相手の商売人は言葉達者になると再度感心した。今日も途中のホテルや道でお客やガイドを乗せながらバスは目的地に向かった。添乗員が私に前に来るように進めてくれたので運転席の仕切られた中に私だけが入った。長い道のりが見晴らしよく180度の視界が開けとっても快適だった。

しかし添乗員やガイドが座る所なので椅子は破れて背もたれは鉄の横棒で仕切られ当たると痛いのでつい体が前かがみになった。絵を描く事を知ってる添乗員の気持ちを察すると文句も言えず3時間もの長い時間を我慢した。目的地までは町らしいところが3箇所ほどあったがいずれも田舎道は悪かった。牛馬に荷車を引かせ後ろにお客を乗せる牛車や馬車(どちらも2匹ペアで引く)や農作物や飼料を運ばせ、まるで西部劇に出てくる2昔も前ののどかな町風景に思えた。

パノラマ状の視界はほとんどが緑の大地であった。インドは今が雨季で遠くに広がる新緑の牧草地には牛や馬やヤギがのんびり草を食み6月の北海道のような緑の眩しさだった。その色彩は青空の下で白いホルスタインや黒い水牛や赤い馬や白黒ぶちのヤギ達がI T産業で急発展しつつあるインドの昨今を尻目に、延々と時の流れに身を任せ、いつの世でも変わらぬ田園風景の中にあった。デカン高原の広い台地に大小様々の樹木の点在も高原大地をにぎわしていた。

次から次と目まぐるしく変わっていく目の前の風景に時間のたつのも忘れてしまうほど左右に目を配った。白と黒の2匹の牛が横一列に並び、首に横棒をくくられ、その真ん中に太い丸太棒が後ろの荷車につながれていた。少年が母親の横であどけない笑い顔を浮かべて手を振る私に嬉しく答えて舵取りしていた。なんてのんびりした光景だろう。わが目を疑うほどの微笑ましさに激しく移ろう現実から私は遠く離れてしばらくの間白日夢の中にあった。

見るものすべてが新鮮で、感じるものすべてが感動で、私が初めにインドに描いた夢が「ここにあったんだ」と思いを深くした。インドは時間の止まったような悠久の昔を観れる国、という先入観を持ってここに来た事を思えば今、私の前を通り過ぎた光景はまさしく私が求めていたものだと、ことさらのように初心に戻った。求めていたものに出会えた感動はしばらく醒める事すら忘れ、悪路にゆれながら走るバスの中で茫然と目を見開いていた。 続く



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